タヌキの“ロードキル“
運転中に野生動物と衝突しそうになって肝を冷やした!という経験はありませんか?
車両に轢かれる、側溝へ転落するなどして野生動物が死亡することを「ロードキル(roadkill)」といいます。ロードキルにあった動物は、通常、行政や道路管理者によって回収され焼却処分されますが、その一方で、野生動物の生息状況を知りたい者にとっては、またとない貴重な試料にもなるのです。そのため、センターでは、ロードキルにあった動物を収容し、解剖してデータを取ったり、標本化して保管したりしています。本コラムでも、タヌキやハクビシンの交通事故死体を引き取り、解剖して胃の中身(内容物)を探ったり、毛皮や骨格の標本を作製したりした例を紹介しました。
つい先日も、市内の路上に「状態の良いタヌキの死体を見つけた」という通報を受け、その日のうちに引き取ってきました。頭部が激しく損傷していたことから、ロードキル個体と見てまず間違いないでしょう。モコモコとした毛並みをもつ「冬毛のタヌキ」で、頭部が血で汚れていることを除けば、毛皮の状態も良好でした。そこで、さっそく毛皮標本の作製に取り掛かったのですが、頭部の出血がひどく、せっかくの毛皮が血で汚れてしまいました。こういう時は洗濯です!中性洗剤に漬けて水洗いした毛皮を扇風機で一晩かけて乾燥させると、手触りの良いモコモコとした毛並みが復活し、大変良い毛皮標本となりました。
このタヌキですが、体重が6キロ近くあり、タヌキとしてはかなり体格の良い部類でした。皮下脂肪も相当なもので、一体何を食べていたのだと思いながら胃を切り開いてみたところ、何やら覚えのある臭いが・・・。胃の内容物の大半が、白身魚フライでした! どうやらこのタヌキは、人間が廃棄したゴミを漁って餌にしていたようです。
「ロードキルにあった動物を引き取ってきた」と聞くと、どうしてわざわざと思われる方もいるかもしれませんが、今回のタヌキの例のように、死体となった動物からは意外に多くの情報を得ることが出来るのです。
(なごや生物多様性センター/曽根啓子)