生きものコラム

タヌキは何を食べていた?

野生動物が「何をどうやって食べているか?」を調べることを、「食性調査しょくせいちょうさ」といいます。食性調査しょくせいちょうさで一番確実な方法は、動物が餌を食べている現場を直接観察することです。しかし、実際に生きた動物を追いかけて、何を食べるのか追跡するのは至難の業です。そこで、よく使われるのが、動物が出したふんを集めて、その中に残っている残骸ざんがい(毛や骨の一部、植物質の断片など)の色や形などから種類を特定(同定)する方法で、「糞分析ふんぶんせき」とよばれています。他にも、ふんほど集めやすくはありませんが、死んだ動物を解剖して、胃の中身(内容物)を調べる「胃内容物分析いないようぶつぶんせき」という方法も用いられます。胃の内容物は、ふんよりも消化が進んでおらず、食べた物の原形が保たれている場合が多いので、同定しやすいという利点があります。

 

先日、守山区で交通事故にって死亡したと思われるタヌキを解剖した際に、胃の内容物を確認したところ、3種類が見つかりました。まず、1種類目は、昆虫の幼虫でした(写真①)。昆虫の専門家(戸田尚希先生)に同定して頂いたところ、「フクラスズメ(Arcte coerula」という中型のガの幼虫であることが判りました。

残りの2種類は、長径が1.5cm程の植物の種子でした(写真②)。1つ目の種子は、秋の果物で有名な「カキノキ(Diospyros kaki」のものでした。カキノキは、タヌキなどの中型哺乳類が秋に利用する果実として有名で、以前に解剖した別のタヌキやハクビシンでも見たことがあったため、容易に同定できました。2つ目の種子は、一見するとカキノキに似ていますが、やや大型で厚みがあるため、別の植物のもののようでした。しかし、種子図鑑などにも載っておらず、探索が行き詰りました。諦めかけていた頃、「野生植物由来でなく、園芸品種の可能性が高い」という植物の専門家の助言を受けて、インターネットで画像検索した結果、「ポポー(Asimina triloba」という北米原産の果樹の種子であることが判明しました。初めて耳にする植物だったのですが、実は最近庭木としても人気があり、その実は大変美味であるようです。さらに驚いたことに、センターの敷地内にも、ひっそりと植わっていました(上の写真)!

タヌキは雑食性で、生息環境によって様々な動物質や植物質を食べ分ける動物として知られています。今回のタヌキは市街地で拾得された個体だけに、人家の周辺で見られる昆虫や庭木に生っている果実を利用していたようです。タヌキは都市部の環境にも順応している動物と言われますが、その通りですね。

(なごや生物多様性センター/曽根啓子)

一覧に戻る
ページトップへ戻るボタン