ハクビシンの “最後の晩餐“
以前のコラムで、「タヌキの胃から見つかったものを手掛かりに、食べていた物を特定する」という話があったのを覚えていますでしょうか?今回は、ハクビシンでのお話です。このハクビシン、12月中旬に守山区の四軒屋バス停付近で拾得された個体で、解剖の結果、腹部が激しく殴打されていた(=交通事故死の可能性が高い)ことがわかりました。胃を含む消化管の中には、当然このハクビシンが死ぬ直前に食べていた物、すわなち「最後の晩餐」が入っているわけです。一体、どんなメニューだったのでしょう?
まず1品目は、赤い果肉と丸みのある薄茶色の実(写真①)でした。「この実の方、見覚えがあるなぁ・・」と思い、植物の専門員に確認したところ、イチョウ(Ginkgo biloba)の種子、つまり「銀杏」でした!とすると、赤い果肉の方は、イチョウの果実ということになります。どうやらこのハクビシン、銀杏を丸呑みしていたようです。銀杏と言えば果肉が強烈な臭いを放つため、苦手という方が多いと思いますが、ハクビシンは人間ほど苦にならないようです。イチョウは街路樹としてよく植えられているので、街中で暮らすハクビシンにとっても、その実は利用しやすいものなのでしょうね。
2品目は、イチョウよりも小粒な赤い実(写真②)でした。こちらは形や大きさの特徴から、アメリカウメモドキ(Celastrus scandens)という園芸品種の果実と判明しました。こちらも人間には毒性があって食用には適さないのですが、ハクビシンは餌として利用できるようです。
3品目は、2種類の昆虫(写真③)でした。詳細な種類は不明ですが、甲虫の体の一部(頭部から腹部)とチョウ類の幼虫のように見えます。
以上3品が、ハクビシンンの最後の晩餐のメニューでした。量の割合からすると、イチョウが主食、アメリカウメモドキが主菜、昆虫が副菜、といったところでしょうか。ハクビシンは雑食性ですが、「果実への依存度が高いこと」、「その都度手に入りやすいものを利用していること」が今回の結果からも伺えました。市内でハクビシンが増えている理由は、このような柔軟な食性に起因しているのかもしれませんね。
(なごや生物多様性センター/曽根啓子)