スナメリが教えてくれること③~66本もあった歯~
藤前干潟に漂着したスナメリの骨格標本の続編です。
1話目は「胸ビレになった前足」、2話目は「鼻の頭の位置」について話しましたが、3話目は「スナメリの歯」の特徴について紹介します。
まず私たち(ヒト)には何本の歯があるのか知っていますか?答えは32本(親知らずを含む)です。
それでは、スナメリやその仲間(鯨類)ではどうでしょう?鯨類の中で、歯をもっているイルカやクジラのグループを「ハクジラ類」といいます。「ハクジラ類」の中には、とても多くの歯をもつ種類がいます。例えば、名古屋港水族館でも飼育されている「バンドウイルカ」では80~120本、「カマイルカ」では120本以上も歯があるといわれています。今回のスナメリの骨格で数えてみたところ、上下合わせて66本もの歯がありました。
ヒトの2倍以上もの歯をもっているなんて、驚きですね!
スナメリの歯がヒトの歯と違っているところは、他にもあります。ヒトの歯は、食べ物をかみ切るための尖った前歯(犬歯)、磨り潰すための平たい奥歯(臼歯)といったように、歯の種類によって形や役割が異なっています。このような歯の特徴を「異形歯性」といい、ヒト以外の哺乳類にも共通して見られる特徴です。ところが、同じ哺乳類に属するスナメリの歯は、このルールに全く当てはまらないのです!
下の写真は、スナメリの歯を並べたものです。どの歯もよく似た形をしていますよね。歯の見た目から、種類(犬歯、臼歯など)を特定することは難しそうです。このような歯の特徴を「同形歯性」といいます。スナメリを含む「ハクジラ類」の祖先の歯は、私たちと同じ異形歯性であったのですが、進化の過程でこの同形歯性に変わってしまったといわれています。その理由は、彼らの餌の食べ方に関係しています。一部の大型の種類(シャチやオキゴンドウ)を除いて、「ハクジラ類」は獲物(魚やエビ、イカなど)をかまずに丸のみにしていて、歯は口に入った獲物が外に出ていくのを防ぐ「柵」のような働きをしているのです。上のスナメリの頭骨の写真を改めて見てみると、確かに歯が柵のように並んでいますよね。
歯にはその動物の生き様がよく反映されていて、とても興味深いです。博物館などで動物の骨格を見る機会があったら、歯の数や形を見くらべてみるのも面白いですよ!
(なごや生物多様性センター/曽根啓子)