トウカイコモウセンゴケ(Drosera tokaiensis)
名前に「コケ」とありますが、苔ではありません。実は食虫植物で、その名のとおり東海地方の湧水湿地などでよく見られます。
食虫植物というと、熱帯雨林などの鬱蒼としたジャングルにいるイメージがあるかもしれませんが、熱帯から寒冷地まで世界中に分布していて、日本では湿地だけでなく、道路脇の水が染み出ている斜面など、身近な場所でも見ることができます。
モウセンゴケ類の葉には腺毛があり、そこから分泌される粘液は、日光に当たると宝石のようにキラキラと輝きます(写真1)。人間にとっては見た目が綺麗なだけの粘液からは、虫にとっては魅力的な香りが放たれているようです。その香りに惹き寄せられた虫は、粘液に絡め取られ身動きが取れなくなり、やがて消化されてしまいます。
葉の形に注目が集まりがちな食虫植物ですが、花は意外なほど綺麗です。初夏になるとロゼット(放射状に拡がった葉)の中心から 花茎(花をつける茎)を出し、ピンク色の小さな花(写真2)を咲かせます。輝く腺毛、クルッと巻いた面白い花茎、綺麗な花、と魅力がいっぱいな植物です(写真3)。
写真1 腺毛
写真2 花
写真3 全体の様子
ギンリョウソウ(Monotropastrum humile) 【 名古屋市版レッドリスト2020:絶滅】
漢字で書くと「銀竜草」。格好いい名前だと思いませんか?実は姿形もとっても格好いいのです。
ギンリョウソウは菌類から栄養を得る菌従属栄養植物です。この仲間は「腐生植物」と言われていましたが、近年では菌類から栄養を得る生態をより現すとして「菌従属栄養植物」と言われます。
普通、植物は光合成をすることで栄養を得ますが、ギンリョウソウの仲間は光合成に必要な葉緑素(緑色の色素)をまったく持たないことが普通です。そのため、見た目は植物とは思えないような色をしています(写真4)。近くで見ると半透明で柔らかい質感の花や葉は、なんとも幻想的です。花は、首を項垂れるように下向きに付きますが(写真
5)、その様子を竜に見立てたのが和名の由来です。一方で、薄暗い林の中で白くぼんやりと見える様子から、別名「ユウレイソウ(幽霊草)」や「ユウレイタケ(幽霊茸)」とも言われます。「茸」と付いていますが、キノコではなくツツジ科の種子植物です。
菌従属栄養植物は、開花・結実時期以外は地上に姿を現さないため、なかなか発見することができず、見つけた時はとても感動します。
写真4 地上に現れたギンリョウソウ
写真5 下を向く花
ハルリンドウ(Gentiana thunbergii)
鮮やかな青色の花がとても印象的な植物です。周辺の里山がまだ冬の気配のなか、湿地に咲く青色の花は、春の訪れをいち早く教えてくれます。
ハルリンドウは日光に敏感で、日が良く当たっていないと開花せず、夕方には花を閉じます。曇っていると、少ししか花を開かないか、まったく開花しません。そのため、満開のハルリンドウ(写真6)を見るためには、よく晴れた日の午前中が狙い目です。花の色は個体によって微妙に違い、濃い青色や、薄い青色、紫っぽい色など様々です(写真7)。写真では微
妙な色合いがなかなか伝わらないので、ぜひ一度直接見て観察してみてください。
写真6 満開のハルリンドウ
写真7 異なる花色
ニホンカモシカ(Capricornis crispus)
ニホンカモシカ(以下、カモシカ)は、ヤギをずんぐりさせたような体形をした体長1m程の動物で、オス、メスともに後ろ向きに短い角が生えているのが特徴です(写真1)。カモシカは日本固有種で、国の特別天然記念物にも指定されています。名前に「シカ」と付いていますが、シカ(鹿)の仲間ではなく、ウシやヤギなどと同じウシ科に属しています。かつては山奥にひっそりと暮らす「幻の動物」とされてきましたが、最近では県北西部の低地でも生息が見られるようになり、なんと2020年には名古屋市の市街地にも出没してニュースになった程です。
さらにカモシカにはユニークな特徴があります。実は、カモシカの上顎には、前歯がありません。頭骨をよく見てみると、そのことが分かります(写真2)。カモシカが普段食べているのは草や木の葉なのですが、一体どうやって採餌しているのでしょう?下顎には前歯があり、これらの歯が上顎に当たる部分には、歯の代わりに「歯床板」と呼ばれる硬い組織があります。採餌の際は、長い舌で草などを巻き取って口の中に入れ、この歯床板に草を押し当てて前歯で切断しているのです。まな板の上で包丁を使って食べ物を切るイメージですね。さらに、口に入れた草などを奥歯(臼歯)で何度も反芻しながら磨り潰して消化しています。一見不便かと思う体の構造にも、ちゃんとした理由が隠されているのですね。
写真1 カモシカ
写真2 カモシカの頭骨
(側面から見たところ)
ムササビ(Petaurista leucogenys)
ムササビは、英語で「flying squirrel(空飛ぶリス)」と言われるように、リスの仲間です(写真3)。他のリスの仲間との大きな違いは、長い前足と後足の間などに「皮膜」という膜があることです。
名古屋市の守山区にある東谷山で墜落死したとみられるムササビを入手し、標本(仮剥製)にする機会がありました。この標本を腹側から見ると、被膜の存在が一目瞭然です(写真4)。この膜を広げてグライダーのように滑空し、樹から樹へと飛び移ることができるのです。実はムササビは在来のリス類の中では最も大型で、体重は1kg程もあります。そのせいか、初めて滑空するムササビの姿を見た方は、「こんなに大きいの!座布団が飛んでいるみたい!」と驚くことが多いです。
写真3 巣箱から顔を出すムササビ
写真4 ムササビ仮?製
(標本番号:NBC-MA00146)
ヌートリア(Myocastor coypus)
ヌートリアは、南米中南部を原産地とする大型(体重:4~6kg程)で半水棲の動物で(写真5)、「齧歯類」と呼ばれるネズミの仲間です。私たちに比較的身近な齧歯類の一つである「ハツカネズミ(実験動物名はマウス)」は多産なことで有名ですが、その妊娠期間は名前にある通り約20日と非常に短いのが特徴です。一方、ヌートリアの妊娠期間は約130日、なんと4か月以上にも及ぶのです!母親の胎内にいる期間が長い分、胎仔の成長はとてもよく進み、生まれた仔(新生仔)の見た目は、まさに「ミニヌートリア」です(写真6)!ヌートリアの新生仔は眼が開いていて物を見ることができ、耳も聞こえているため、生まれた直後から活発に動くことが可能です。さらに、生後1 ~ 2週間もすれば、自ら草を食べ、水中を泳ぐことさえ出来るのです。
現在、日本では特定外来生物として問題となっているヌートリアですが、「生まれた仔がいち早く自立する」という特徴が、野外で生き抜く上で有利に働いているのかもしれませんね。個人的には、非常に興味深い生きものです。
写真5 泳ぐヌートリア
写真6 生後2日目の新生仔
コガネムシ(Mimela splendens (Gyllenhal,1817))
毎年5月頃、初夏の季節を迎えると、私は河原のクズの群落に目を凝らし「黄金の虫」、そう、コガネムシの姿を探してしまいます。赤みを帯びたメタリックグリーンに輝く姿は、まるで宝石のように美しく、心惹かれてなりません。昆虫の中でも大好きな虫のひとつです。
自然界には輝くような色の生物がたくさんいます。コガネムシやタマムシなどの昆虫、鳥ではクジャクやカワセミ、 魚ではサンマやタチウオなど。これらの生物が持つ鮮やかな色彩は、「構造色」と呼ばれる発色の仕組みを持っています。
色素による色が、残したい色以外の色を吸収することで着色するのに対して、構造色は特定の波長の光を積極的に反射させることにより、色をつけていると言えます。 しかし、その構造はたいへん複雑で、光の波長程度の微細な構造が、干渉や散乱などの光学現象を起こして着色しています。
一口に構造色と言っても様々なパターンがあるのですが、タマムシは「多層膜構造による光の干渉」による発色、コガネムシは「円偏光選択反射」による発色だそうです。
話が難しくなってきましたが、コガネムシの体表は左回りの螺旋構造物質で覆われていて、左回りの円偏光だけを反射し、右回りの円偏光は吸収します。コガネムシ科のアオドウガネやシロテンハナムグリなども、右回りの円偏光を照射して見ると、なんと真っ黒に見えるのだそうです。ところがアオカナブンは体表の構造が全く異なるようで、どちらの円偏光でも緑色に輝いて見えるようです。
クズの群落をじっくりと観察していると、アオドウガネやドウガネブイブイ、ヒメコガネやマメコガネ、セマダラコガネやクロコガネなど、たくさんの仲間がいることにも気付きます。何気ない身近な環境の中に、よく見ると実に多くの生物が暮らしていて、生物多様性の世界を垣間見ることができます。
コガネムシ
カナブン(Pseudotorynorhina japonica (Hope,1841))
子供の頃、捕まえて手のひらに包み込むと、指の間をこじ開けて出てくる力強さに感動しました。昔から尊敬している虫です。
カナブン
ハッカハムシ(Chrysolina exanthematica (Wiedemann,1821))
金色地に黒いドット柄、なんだか日本の伝統文様のような素敵な配色です。足とお腹はコバルトブルーに輝き、小さいながらとても美しい虫です。
ハッカハムシ
ウバタマムシ(Chalcophora japonica (Gory,1840))
一見地味ですが実はかなりの美しさ。高級な呉服を思わせるような、しぶい輝きが粋なところです。
ウバタマムシ
ウバタマムシ
皆さんも是非一度、「黄金の虫」を探してみてはいかがでしょうか。その輝きにきっと感動を覚えると思います。
マミズクラゲ(Craspedacusta sp.)
今まで2回しか出会った事のない幻の生きものがいます。初めて確認したのは、2011年9月24日の小幡緑地にある竜巻池にて、カメの調査を行っていたときの事です。水中をのぞくと白っぽい1cmぐらいの物体が水面に大量に発生しており、これを捕獲するとマミズクラゲの仲間(写真1)であることが分かりました。
その後、1週間ほどで居なくなってしまい、それ以降は確認できておりません。生態や市内での生息地については謎だらけで詳しく分かっていない生きものですので、遭遇することができたらラッキーです。当時、エコパルなごやのマンスリー企画展示では冷凍アカムシで飼育しましたが、維持するのが非常に難しい生きものでした。しかし、2021年10月25日の調査で発見し(写真2) 、今回は名古屋港水族館で展示を行いました。
野外の調査では、このような一期一会の出会いに自然の神秘を感じさせられます。
写真1 マミズクラゲの仲間
写真2 冷凍アカムシを食べる様子
ヒバカリ(Hebius vibakari vibakari)
ヒバカリは毒を持たない体長60cmぐらいになる小型のヘビで、森林や水田など水辺のある環境に生息しています。
野生のヒバカリ(写真3)を初めて目の当たりにしたのは、ヒキガエルの幼体の上陸が見られた時期でヒキガエルの亜成体を食べに来たのであろうと思います。私はヘビが苦手でしたが、この時、とても可愛いつぶらな瞳や、背中の黒色と腹部の白色が綺麗なツートーンカラー、性格も穏やかでおとなしいこともあり魅了されました。
しかしながら、ヘビ類を観察するときは、その種類に気を付けて扱う必要があります。ヒバカリは頭の後ろの白いラインが特徴ですが、成体(写真4)では体色が明るい茶色に変わるのでしっかりと観察してみましょう。
ヘビは食物連鎖で捕食者として上位に君臨しますが、エサとなる生きものが激減しており、今後の生息環境の悪化が心配されます。
写真3 ヒバカリの幼体(小幡緑地)
写真4 ヒバカリの成体(モリコロパーク)
ナマズ(Silurus asotus)
名前を聞けば姿形が思い描けるほどキャラクター性が強く、その長いヒゲと扁平した顔、ぽってりとした姿がとても可愛らしい淡水魚です。 市内では河川、水路、ため池など広く生息しており、センターの目の前を流れる植田川にかかる植田橋の上からでも、度々大きなナマズを目撃することがあります(写真5)。
私が小学生の頃、学校帰りの田んぼの側溝で捕まえたナマズの幼魚(写真6)が私にとっては衝撃的で、生きもの好きが続いているきっかけともなっています。
現在、「ナマズ」と「タニガワナマズ」の2種に分類が分けられており、捕獲した時には詳しく調べる必要があります。
しかし、市内にある水田は減少しており、私の思い出の水田も無くなってしまったため、そこに居たナマズを確認することができないのが、悔しい限りです。
写真5 ナマズの幼魚(矢田川)
写真6 ナマズの成魚(矢田川産)