生きものコラム

2022年度 インターンシップに参加して①

突然ですが、名古屋と言えば何を思い浮かべますか? 名古屋城? 味噌カツ? 手羽先? ここで「生物多様性」という単語を挙げる人は、どのくらいいるのでしょうか。

 

私は名古屋市の西部にある近郊都市、いわゆるベッドタウンに住んでいるのですが、名古屋と言えばまさに「最も身近な都会」でした。大都市という側面のみを見続けてきた私にとって、そこに6697種もの生きものが生息していて、そのうち754種が絶滅の危機に瀕しているなんて、知る由もありませんでした。

 

そのため、大学の講義・実習や藤前干潟での活動を通して、名古屋という場所が実は非常に生物多様性が豊かで、積極的に保全活動を行うべき場所であると知った時、ひどく衝撃を受けました。と共に、もっと早く知りたかったと後悔し、身近な場所にある生物多様性を守っていかなければならないという使命感を抱きました。そんな中、名古屋で生きものの情報の収集・発信、市民との協働による生きもの調査など、様々な魅力的な活動の拠点となっている「なごや生物多様性センター」に興味を持ち、インターンシップに参加することにしました。

 

5日間のインターンシップ実習では、事務仕事から具体的な保全事業・ハクビシンの仮剥製づくりまで、様々なお仕事を体験させていただきました。その中でも、名古屋市のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されているニホンイシガメの保全事業のお手伝いをしたことが心に残っています。ニホンイシガメは、孵化温度によって性別が決定するTSDという性質をもっています。そのため、地球温暖化により気温が上昇すると性比に偏りが生じ、雄と雌が出会うことが難しくなり、個体数減少の原因のひとつになってしまうのです。センターでは、低温で孵化させることで雄個体を増やし、ある程度大きくなるまで飼育し、マーキングをして親が捕獲された場所に放すという事業を行っているそうです。

 

今回お手伝いさせていただいたのは、生まれたばかりの子ガメの計測と餌やりです。ノギスで甲長と背甲長を、はかりで体重を計測し、甲羅の数に異常がないかを調べました。計測中は、生まれたばかりの子ガメとはいえ、精一杯手足をばたつかせて抵抗するので、うっかり落とさないようにするのに一苦労でした。

 

その後、計測した子ガメにはアカムシを、水槽の中で飼育されていた少し大きくなった子ガメには人工餌を与えました。水槽の前に立っただけでこちらの存在に気づき、水面を波立たせながら餌をねだる姿は、とてもかわいらしかったです。また、小さな体で必死に餌に食らいつく姿には、生きものの命の力強さを感じさせられました。

 

 

 

 

 

一方で、生きものの「死」について考えさせられる場面も多くありました。孵化直前で死んでしまった子ガメ。検卵で異常が見られたため職員の方が解剖すると、卵の中では、先ほど計測した個体と何ら変わらない姿の子ガメが、卵黄を抱え込んで眠っていました。原因は不明だそうです。

 

生まれることができた子ガメと生まれることができなかった子ガメ。その違いは、ほんの些細なものかもしれません。しかも、運よく生まれることができたとしても、その中で子孫を残すことができるのは、様々な生存競争を生き延びた個体のみなのです。この地球上にあるすべての命というものは、力強いとともに儚く、尊いものである。そう実感した瞬間でした。

 

しかしながら、そんな尊い生きものを殺さなければならないという現状も目の当たりにしました。子ガメ計測をした3日後、山崎川で捕獲されたミシシッピアカミミガメの計測を体験させていただいたのですが、その後計測を終えたカメが向かった先は、水槽ではありませんでした。カメは袋に詰められ、冷凍庫に入れられてしまったのです。

 

ミシシッピアカミミガメは、愛知県の条例公表種に指定されている外来種で、生きた個体を野外に放つことが望ましくありません。そのため、捕獲した個体は殺処分することしかできないのです。冷凍庫で凍死させるのは、変温動物であるカメは、低温になると体が休眠体勢に入るため、痛みを感じずに死ぬことができるためだそうです。最も生きものを愛している職員の方が一番生きものを殺しているという倒錯した現状に、外来種問題をより深く考えさせられました。

 

 

 

 

5日間のインターンシップで、生物多様性を保全するという仕事のやりがいと厳しさをどちらも体験することができました。非常に貴重な経験ができたと思っています。今後も生物多様性への学びを深めながら、何らかの形で生きものと関わり続けたいです。名古屋といえば「生物多様性」。そう答える人が少しでも増えればいいなと思います。

 

 

(なごや生物多様性センターインターン生/村上萌々子)

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