どうしてイノシシの鼻は大きいの?
森の周辺を歩いていると、地面にスコップで耕したような穴が空いているのを見かけた経験はありませんか?
実はこの穴、イノシシの掘り返しの跡なのです。イノシシは地面を掘り返して、落ち葉の下や土の中にいるミミズや昆虫の幼虫、植物の根などを探して食べています。この時に力を発揮するのが、大きくて頑丈な鼻です。
イノシシの鼻には、2つの能力が備わっています。まず1つ目が、「ものを嗅ぎ分ける能力」です。イノシシの鼻の先端は円盤状をしていて、粘液で湿って光って見えるために「鼻鏡」とよばれています。湿った鼻先には、匂いの分子が吸着しやすいという特長があります。そのため、イノシシは湿った鼻先を地面に擦りつけることで、地中に潜んでいる生きもの(餌)を匂いで探し出すことが出来るのです。ちなみに、ヨーロッパで、森の中に生えているキノコ(高級食材トリュフ)探しにブタ(イノシシを家畜化した動物)が長年使われてきたのも、「鼻が利く」というこの特性を活かしてのことでした。
そして2つ目が、「硬いものを掘り返す能力」です。餌を発見したイノシシが次に行うことは、鼻をスコップのように使って地面を掘り返すことです。鼻を地面に突っ込み、鼻の上に土を載せて一気に掻き出します。この時に役立っているのが、「吻鼻骨」とよばれる鼻の先端にある扁平な骨です。吻鼻骨は、鼻の内部(鼻腔)を左右に分ける仕切り(鼻中隔)から分化したものと言われていて、イノシシの仲間に特有の構造物です。センターにあるイノシシの吻鼻骨を成長段階ごとに比較してみると、ウリボウとよばれる幼獣の頃は小型で比較的柔らかいのに対し、成獣に近づくほど大型で硬い骨へと変化していくことが分かります。イノシシが藪の中でも積雪の中でも、ぐいぐい顔を突っ込んで「猪突猛進」できるのも、大きく頑丈な鼻があってのことなのでしょう。
さて、タイトルにもある「どうしてイノシシの鼻は大きいの?」の答えは、もう分かりましたよね。ずばり、「餌を食べるためさ!」です。雑食で食い意地がはっていることの例えにもされる動物ですが、それが鼻の形からも見えてくるとは面白いですね。
曽根啓子(なごや生物多様性センター)