生きものコラム

巨大ネズミ・ヌートリアに見つかった“歯周疾患”

上の写真は、2種類のネズミの仲間(齧歯類げっしるいの頭骨です。手前が「ドブネズミ」、奥が「ヌートリア」です。ドブネズミは、野外でも見られますが、ペットや実験動物(いわゆるラット)としても飼育されている小型のネズミです。一方、ヌートリアは日本各地で野生化している巨大ネズミで、在来・外来も含めると、日本に生息するネズミ類の中では最大級です。センターで解剖した際に計測したこの2種の体重差は、約15倍(ドブネズミ:350g、ヌートリア:5,400g)もありました!

 

今回は、この巨大ネズミ「ヌートリア」に見つかった歯の異常についてご紹介します。まず写真①は、ヌートリアの上あごにある奥歯(臼歯きゅうし)のみ合わせ面(咬合面こうごうめん)を写したものです。向かって右手の歯の並びに注目して下さい。前から3番目と4番目の歯の間に隙間(矢印)があることに気付きませんか?この隙間を側面から見たのが、写真②です。歯を支えている骨(歯槽骨しそうこつ)が凹み、凹んだ部分(矢印)には繊維質が挟まっています。どうやら、この凹みが歯の隙間の原因と思われます。また、挟まっていた繊維質を取り出してみると、緑色がかっていて、草の繊維のようでした(写真③)。

ヌートリアの頭骨や歯に見られたこれらの特徴は、人間の「歯周疾患」の症状とそっくりです。ヌートリアは草食性で、固い茎をもつイネ科植物なども好んで食べています。こうした草を奥歯でつぶしているうちに、草の繊維が歯の間に挟まって、そこから歯周組織が傷つき、歯を支える骨(歯槽骨しそうこつ)が吸収されて、凹んでしまったものと考えられます。

 

「野生のネズミが歯周疾患になるなんて、聞いたことがない!」と思われるのも最もで、冒頭で紹介したドブネズミでは、実はほとんど見られません。それではなぜヌートリアでは見られるのかという疑問に対する答えの一つが、ヌートリアの寿命の長さです。ドブネズミなどの小型のネズミの多くが、2~3歳までしか生きられないのに対し、ヌートリアは野生下でも7~8歳まで生きることがあるのです。人間でも高齢になると歯周疾患になりやすくなりますが、これはネズミの仲間にも共通する現象なのかもしれませんね。

(なごや生物多様性センター/曽根啓子)

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