「子」と「卯」
年の瀬ということで、 “干支”にちなんだ「子」と「卯」の話題です。上の写真は、2種類の動物(AとB)の頭骨を、側面から撮影したものです。一方が「ムササビ」、もう一方が「アナウサギ」のものなのですが、どちらが「子」と「卯」でしょうか?
答えを明かす前に、まずはこの2種類の動物の分類(=分けられ方)から見ていきたいと思います。ムササビは英語で「flying squirrel(空飛ぶリス)」と言うように、リスの一種、すなわちネズミの仲間です。一方、アナウサギは名前にもある通り、ウサギの仲間です。ネズミの仲間は哺乳類の中でも最も種類が多く、かつてはウサギの仲間もその一員に含まれていました。その最大の理由は、両者とも「一生のび続ける鋭い前歯(切歯)を持っている(以前のコラムを参照)」ことでした。ところが、今から100年程前に、アメリカの古生物学者(James W. Gidley)が「ウサギの仲間は独立したグループである」という説を提唱して以来、両者は別のグループとして認められるようになりました。
さて、話を戻しましょう。ネズミの仲間とウサギの仲間を特徴づける最大のポイントは前歯にあると言いましたが、実は両者を見分けるポイントもこの前歯にあるのです。アナウサギの前歯を拡大した写真①を見てください。上下のあごに、大きくて鋭い前歯が1対ずつあります。さらに、上あごの前歯の裏側に注目すると、前歯がもう一対あることに気付きます。この前歯の様子を、ネズミの仲間とくらべたのが、写真②です。ネズミの仲間であるドブネズミ(ラット)とムササビでは、上あごの前歯は1対しかありませんが、アナウサギでは2対あるのが分かりますよね!
最初の写真をもう一度見くらべてみると、Bの動物では上あごの前歯がダブルになっています。ということは、Bがアナウサギで「卯」、Aがムササビで「子」ということになります。正解できましたでしょうか?
2021年は「丑年」ですので、今度はウシの仲間の話が出来ればと思います。来年もよろしくお願い致します。
(なごや生物多様性センター/曽根啓子)