ニホンイシガメ -名古屋市内では絶滅の危機?-
名古屋市内のため池や河川にはニホンイシガメが生息しています。ニホンイシガメは世界でも日本の本州、四国、九州と周辺の島々にしか分布しない日本固有種で、世界的に見ても貴重なカメです。また、里山の水辺を代表する動物であり、里山のシンボル的存在とも言えます。
名古屋市内ではかつて東部丘陵を中心に緑地が連続し、ため池も数多く存在していました。現在、都市化によって緑地は分断され、ため池の数もかつての3分の1程度になりましたが、それでもニホンイシガメは何とか生き残ってきました。
しかし、異変は起きています。まず一つはオスの数が非常に少ないということ。カメ類の中には卵がさらされる温度によって性別が決定される種がいます。ニホンイシガメは28℃より高い温度でメスになり、それ以下ではオスになるという性質を持っています。都市化した地域では緑が少なくなり、直射日光にさらされる地面の割合が増えました。その結果、産卵場所の温度が高くなり、ニホンイシガメのオスが生まれにくい状況にあると推測されます。市内での野外調査でも、ニホンイシガメのオスは圧倒的に少なく、中にはほとんど捕獲できない場所もあります。オスがいなくては繁殖できません。
もう一つの異変は老齢化が進んでいるのではないかということ。市内の調査で捕獲されるニホンイシガメは老齢個体が目立ち、若齢の個体がほとんど捕獲できない場所も珍しくはありません。ニホンイシガメは次世代をうまく残せていないのではないかと危惧されます。
カメ類の寿命は長く、成体の生存率が高いので、ある場所において長い間、カメ類の存在を確認することができます。そのため、「まだ普通に生息しているのでは」と誤解されてしまうのですが、ニホンイシガメの場合は次世代をうまく残せていないので、親の世代の寿命が尽きたなら、一挙に地域的な絶滅のおこる可能性があります。名古屋市内のニホンイシガメは多くの場所でそのような状況にあるのではないかと推測されます。そのため、「なごや生物多様性センター」ならびに「なごや生物多様性保全活動協議会」では、徐々に対応を進めています。現在、3か所の地域で捕獲したニホンイシガメを繁殖させ、卵を27℃以下で管理、オスを孵化させるという試みを行っています。センターでは孵化した幼体をしばらく育成し、今後、元の場所に戻していく予定です。現在はオスを中心に孵化させていますが、今後、計画的にメスも孵化させていく予定です。
(なごや生物多様性センター/野呂達哉)